Goのreflectパッケージにおけるパフォーマンス低下について
はじめに
こんにちは。株式会社 Belong で Backend Engineer をしている Mohiro です。
本記事では、Go の標準パッケージである reflect パッケージを使用した場合の「パフォーマンス低下」が発生する原因について解説します。
reflect パッケージを使用することで、静的型付け言語である Go において、実行時に型情報を動的に取得できます。
これにより、柔軟なコードを書くことができるのですが、使用時には考慮すべき点がいくつか挙げられます。
今回はその中でも代表的な注意点である「パフォーマンス」に着目しました。
対象読者
- Go をある程度触ったことのある人
- reflect パッケージ使用時の基本的な注意点を知りたい人
目次
- reflect パッケージにおける、パフォーマンス低下について
- 主な要因
- 動的型情報の取得
- メモリアロケーションのオーバーヘッド
- ガベージコレクションの影響
- 検証
- 主な要因
reflect パッケージにおける、パフォーマンス低下について
主な要因
1. 動的型情報の取得
動的に型情報を取得するために多くのコストを必要とします。 これはコンパイル時、静的に型情報を持っていないため、実行時に型情報を調べる必要があるためです。 reflect パッケージにおいて、動的型情報を取得する関数は、主に以下の2つがあります。
- reflect.TypeOf()
- reflect.ValueOf()
2. メモリアロケーションによるメモリ使用量の増加
reflect オブジェクトは、値に加え、値の型情報などを保持しており、メモリサイズが大きくなりがちです。 そのため、大量の動的メモリアロケーションが必要とされる場合があります。 これがメモリ使用量の増加に繋がります。
3. ガベージコレクション実行回数の増加
Go のガベージコレクタの実行タイミングは
- 前回の実行から一定時間後
- 割り当てられたメモリが特定の割合を超える(詳細) とされています。 reflect パッケージを使用すると、reflect オブジェクトが大量に生成され、[2] に抵触する場合があります。
検証
以下は、上記で挙げた3項目によりどの程度のパフォーマンス低下が発生するかを検証したコードです。
package main
import (
"fmt"
"reflect"
"runtime"
"time"
)
type Person struct {
Name string
Age int
}
func (p Person) GetName() string {
return p.Name
}
func (p Person) GetAge() int {
return p.Age
}
func main() {
p := Person{Name: "John Doe", Age: 30}
// 静的な型情報を使用
startStatic := time.Now()
memStatsStatic := new(runtime.MemStats)
runtime.ReadMemStats(memStatsStatic)
for i := 0; i < 100000; i++ {
name := p.GetName()
age := p.GetAge()
if i == 99999 {
fmt.Println("Static: ", name, age)
}
}
elapsedStatic := time.Since(startStatic)
memStatsStaticAfter := new(runtime.MemStats)
runtime.ReadMemStats(memStatsStaticAfter)
// 動的な型情報を使用
startDynamic := time.Now()
memStatsDynamic := new(runtime.MemStats)
runtime.ReadMemStats(memStatsDynamic)
arg := make([]reflect.Value, 0)
for i := 0; i < 100000; i++ {
value := reflect.ValueOf(p) // ※1
nameMethod := value.MethodByName("GetName")
ageMethod := value.MethodByName("GetAge")
name := nameMethod.Call(arg)[0].String() // ※2
age := int(ageMethod.Call(arg)[0].Int())
if i == 99999 {
fmt.Println("Dynamic: ", name, age, "\n")
}
}
elapsedDynamic := time.Since(startDynamic)
memStatsDynamicAfter := new(runtime.MemStats)
runtime.ReadMemStats(memStatsDynamicAfter)
fmt.Println("実行時間")
fmt.Printf("Static: %v\n", elapsedStatic)
fmt.Printf("Dynamic: %v\n\n", elapsedDynamic)
fmt.Println("メモリアロケーション[byte]")
fmt.Printf("Static: %d\n", memStatsStaticAfter.TotalAlloc-memStatsStatic.TotalAlloc)
fmt.Printf("Dynamic: %d\n\n", memStatsDynamicAfter.TotalAlloc-memStatsDynamic.TotalAlloc)
fmt.Println("ガベージコレクションの実行回数")
fmt.Printf("Static: %d\n", memStatsStaticAfter.NumGC-memStatsStatic.NumGC)
fmt.Printf("Dynamic: %d\n", memStatsDynamicAfter.NumGC-memStatsDynamic.NumGC)
}
このコードは、Person 構造体に GetName() と GetAge() メソッドが定義されています。
最初のループでは、静的な型情報を使用して、Person のインスタンスから直接 GetName() と GetAge() を呼び出しています。2 番目のループでは、reflect パッケージを使用して、動的にメソッドを呼び出します。
最後に、それぞれのループにおける実行時間とメモリアロケーション、ガベージコレクションの実行回数を表示します。
実行結果は以下になります。
Static: John Doe 30
Dynamic: John Doe 30
実行時間
Static: 111.541µs
Dynamic: 83.995083ms
メモリアロケーション[byte]
Static: 1320
Dynamic: 38412520
ガベージコレクションの実行回数
Static: 0
Dynamic: 9
reflect パッケージの使用により、パフォーマンスに大きな差異が生まれたことが分かります。
次に、パフォーマンス低下の主な要因として挙げた3項目の該当箇所を見ていきます。
1 番目の要因である「動的型情報の取得」は以下の部分が該当します。(検証コードの※1)
value := reflect.ValueOf(p)
ValueOf 関数を使って、p 変数の動的な型情報を取得し、MethodByName 関数を使って、p 変数のメソッドを動的に取得しています。
2 番目の要因である「メモリアロケーションによるメモリ使用量の増加」は以下の部分が該当します。(検証コードの※2)
name := nameMethod.Call([]reflect.Value{})[0].String()
age := int(ageMethod.Call([]reflect.Value{})[0].Int())
上記の Call メソッドでは、引数および戻り値に []reflect.Value が使用されます。 今回のケースでは引数は空のスライスなのでメモリアロケーションは発生しませんが、戻り値では値と型情報を格納する段階でメモリアロケーションが発生します。
3 番目の要因である「ガベージコレクション実行回数の増加」は以下の部分が該当します。(検証コードの※1)
value := reflect.ValueOf(p)
reflect.ValueOf(p) を呼び出すことで、新しく生成された reflect オブジェクトが、ガベージコレクションの対象となります。
最後に
本記事では、冒頭で述べた「reflect パッケージのパフォーマンス低下の要因」という 3 つの項目について、それぞれ検証用のコードを用いて解説しました。 個人的な感想としては、今回使用した検証コードで約 0.1 秒程度のパフォーマンス低下が発生した結果は、今後の開発に役立つ指標になるのではないかと感じました。 今後 reflect パッケージを使用する場合には、本記事を思い出して頂ければ嬉しく思います。
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