中古端末におけるSIMロックの検品
はじめに
Belong Inc.で Data Platform チームのマネジメントを担当している eno です。趣味は OSINT(a.k.a ネット探偵)、好きな Python パッケージはPydantic、好きな New Balance は m990v3、好きなスマホは Nothing Phone (1)です。
Belong には日々数多くの中古携帯端末が入荷され、検品されたのちににこスマをはじめとした様々なチャネルで販売されます。これら中古端末の価値に影響を与える要素のひとつに"SIM ロック"の状態があり、端末の検品においてはこれを確認することが重要なプロセスのひとつになっています。 本記事ではそもそも SIM ロックとは何かについて説明した後に、SIM ロックに関係する検品オペレーションをどうやって効率化しているのかについて紹介します。
SIM ロックとは
SIM ロックとは、特定の通信キャリアの SIM カードでしかモバイル通信ができないよう、通信キャリア側で端末が利用できる回線に制限をかけることです。
例えばソフトバンクの SIM ロックがかかっている端末は、ソフトバンクの SIM カードでは通信できますが、NTT ドコモ等他の通信キャリアの SIM カードを挿し込んでもインターネットや通話が利用できません。 通信キャリアとしては、SIM ロックをかけておくと、不正な手段で入手された端末だと判明した場合に端末を利用できなくする措置をとることができます。端末代金の未払いや端末の詐欺・転売防止などの理由で、以前は通信キャリアが販売する端末にはすべて SIM ロックがかかっていました。
しかし SIM ロックがかかっていると、ユーザーの利便性は大きく損なわれます。
例えばソフトバンクのユーザーがMNPで NTT ドコモの回線に乗り換えたいとなった場合、今まで使っていたソフトバンクで購入した端末は使用できず、新しく NTT ドコモで端末も買い換えないといけません。こうなると通信キャリアの乗り換えが簡単にできません。端末の買い替えにコストがかかるためです。
そのため SIM ロックは不正利用の防止よりも通信キャリアによる顧客囲い込みの側面が大きいのではないかという指摘がかねてよりありました。もとよりモバイル通信は、総務省より限られた周波数帯域を利用する免許を取得しユーザーにサービスを提供する規制産業であり、寡占市場です。総務省は通信キャリア間の競争環境整備の一環で、2010 年頃から SIM ロックという仕組みをなくすための法整備を進めてきました。
詳細は総務省テレコム競争政策ポータルサイトの資料をご覧いただければと思いますが、SIM ロックについては過去に大きく 2 つの契機がありました。
- SIM ロック解除義務化: 2015-05-01~ - 2014 年 12 月に総務省より発表された「SIM ロック解除に関するガイドライン(平成26年12月改正)」により、2015 年 5 月 1 日以降に通信キャリアから新たに発売される端末は、ユーザーが希望すれば SIM ロックの解除が可能になりました。iPhone だと、iPhone 6s 以降がこれにあたります。 - このときはまだ、キャリアショップで購入した時点では SIM ロックがかかっており、解除のためには別途手続きを行う必要がありました。またこのガイドラインにより 2015 年 4 月までに発売された端末の対応は各通信キャリアの判断に委ねられることとなりました1。
- SIM ロック原則禁止: 2021-10-01~ - 2021 年 8 月に発表された「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン(令和3年8月 10 日最終改正)」により、2021 年 10 月 1 日以降に通信キャリアから新たに発売される端末は、はじめから SIM ロックのない状態で販売されることになりました。iPhone だと、iPhone 12 以降がこれに該当します。
結果として通信キャリアが販売した端末は、発売された時期に応じて凡そ 3 種類に分けられます2。
- SIM ロックが解除できない端末
- SIM ロックがかかっているが、解除できる端末
- SIM ロックがそもそもかかっていない端末
中古端末の SIM ロック判定・解除
前述した通り、SIM ロックがかかっているかどうかで端末の利便性が変わってきます。そのため中古端末市場では同じ機種でも、SIM ロックが解除されているもののほうが高値で取引されます。よって中古端末事業者としては調達した端末の SIM ロック状態を確認したうえで、解除可能なものは解除して価値を高めてから販売したいというモチベーションがあります。
しかしながら中古端末の SIM ロック状態を確認するのは手間のかかる作業となります。
Belong ではにこスマ買取という端末買取サービスを提供していますが、特に個人から買取するような場合、そもそもどこの通信キャリアから購入した端末なのかがわからない状態で検品がスタートします。 この場合、地道にやるなら端末に各通信キャリアの SIM カードを挿して通信できるかどうかチェックし、消去法で以下のように SIM ロックの状態を判定することになります3。
NTT ドコモ | au | ソフトバンク | SIM ロックの状態 | |
---|---|---|---|---|
通信可 | 通信可 | 通信可 | → | 解除済、SIM フリー |
通信可 | 不可 | 不可 | → | NTT ドコモの SIM ロック |
不可 | 通信可 | 不可 | → | au の SIM ロック |
不可 | 不可 | 通信可 | → | ソフトバンクの SIM ロック |
また上記チェックの結果 SIM ロックがかかっている端末だった場合、次に端末のモデル(機種)の発売日を確認したうえで、SIM ロック解除が可能なのかどうかを判定することになります。解除可能な端末だった場合は、各通信キャリアのサイトに行ってIMEI(International Mobile Equipment Identifier. 15 桁からなる端末固有の識別番号)を入力し、解除手続きを行います。 こういった手順を日々大量に入荷してくる端末個々にやっていくのは、なかなかに骨の折れる作業です。
Model Catalog を利用した効率化
Belong ではこういった中古端末の検品や管理を効率化するため、社内では Model Catalog と呼ばれている中古端末のマスタデータベースを整備しています。 Model Catalog のマスタテーブルの一例を挙げると、TAC マスタがあります。IMEI の先頭 8 桁は TAC(Type Allocation Code)と呼ばれ、端末の機種(モデル)を表すコードになります。また TAC には通信キャリアに関係する情報も含まれることがあり、IMEI を手がかりにして様々な情報が特定できます。Belong では日々入荷する端末や、市場に流通している端末の公開情報をデータソースとして解析し、TAC とその関連情報を以下のように整備しています。これにより、IMEI からモデルや発売日、どの通信キャリアから発売された端末なのかを判定することが可能になります。
TAC | model | carrier | release_date |
---|---|---|---|
35780985 | Xperia 5 Ⅲ | SoftBank | 2021-10-08 |
35861831 | Xperia 5 Ⅲ | au | 2021-10-08 |
35527394 | Xperia 5 Ⅲ | NTT docomo | 2021-10-08 |
35886431 | Galaxy Z Flip3 5G | au | 2021-08-27 |
35886599 | Galaxy Z Flip3 5G | NTT docomo | 2021-08-27 |
35788073 | Galaxy Z Fold3 5G | au | 2021-08-27 |
35038936 | Galaxy Z Fold3 5G | NTT docomo | 2021-08-27 |
実はこの TAC データベースはGSMAというモバイル通信事業者の業界団体が販売しているものがあります。しかし中古端末を管理するうえではそのまま利用できない部分があり4かつ高額なため、Belong では独自に構築しています。
この Model Catalog を社内の在庫管理システムと API などで連携させることで、大部分の端末は IMEI を入力すると SIM ロックがかかっているなのか、解除可能なものなのか、どこの通信キャリアのサイトで解除手続きをすべきものなのかの自動判別できるようになります。これにより検品作業者の手間を減らし、大量の端末を効率的に検品することが可能になります。
おわりに
今回は SIM ロックに関係する検品オペレーションを、マスタデータを整備することで効率化していることについて簡単にご紹介しました。
Model Catalog は端末検品・在庫管理業務だけではなく、市場価格データの自動収集・解析など社内のデータ管理・分析基盤の中核に位置するデータベースとなっています。他事業者とのデータ連携の際にもこのデータを利用することで、業界のデファクト・スタンダードとして機能させるべく、日々情報を更新しています。多言語対応や、より精緻な分析を可能にするためのメタ情報の拡充など、Data Driven を加速させるために Model Catalog の果たす役割がどんどん大きくなるフェーズにあります。
- データを活用したオペレーションの改善
- 公開情報のデータ収集・クレンジング・統合のデータパイプラインの構築
- きれいに蓄積された社内外の価格データを活用した中古端末の買取・販売価格設定の自動化・最適化
上記に興味のある方はぜひカジュアル面談でお会いしましょう!
Footnotes
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NTT ドコモは 2011 年 4 月~ 2015 年 4 月に発売されたものも対応する一方、ソフトバンクは原則 2015 年 5 月以降発売機種しか対応していない。一部対応している機種もあるが店舗での手続きが必要 ↩
-
通信キャリアのなかには 2021 年 10 月を待たずして SIM ロックのない状態で販売しているものもある。 ↩
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総務省 競争ルールの検証に関する WG(第 30 回)において、中古端末事業者の業界団体である一般社団法人リユースモバイル・ジャパンが、SIM ロック解除の確認方法が大変であるため簡単に確認できるシステムの導入について要望している。 ↩
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例えば GSMA のデータベースでは
35869259
という TAC はSony PM-1415-BV
、35233356
という TAC はSony PM-1413-BV
として登録されている。この 2 つは一般的にはXperia 5 IV
という機種名で認知されているもので、前者はソフトバンクから、後者は NTT ドコモから販売されたもの。 ↩