中古端末におけるネットワーク利用制限状態の確認
はじめに
Belong Inc.で Data Platform チームのマネジメントを担当している eno です。好きな Python パッケージはPydantic、最近気になっているスマホは Nothing Phone (2)です。
Belong には日々数多くの中古携帯端末が入荷され、検品されたのちににこスマをはじめとした様々なチャネルで販売されます。これら中古端末の価値に影響を与える要素のひとつに"ネットワーク利用制限"の状態があり、端末の検品においてはこれを確認することが重要なプロセスのひとつになっています。 本記事ではそもそも"ネットワーク利用制限"とは何かについて説明した後に、ネットワーク利用制限に関係する検品オペレーションをどうやって効率化しているのかについて紹介します。
ネットワーク利用制限とは - 債務不履行時などに端末を通信できなくする仕組み
ネットワーク利用制限とは、キャリアショップ等で分割払いで購入した端末の分割代金支払いがなされなかった場合などに、端末の携帯通信をできなくする仕組みのことです。ネットワーク利用制限がかかった場合、その端末では携帯通信・通話ができなくなります。1
主に大手通信キャリアが導入している仕組みで、IMEI(端末識別番号)を入力して端末のネットワーク利用制限の状態を確認できるサイトが提供されています。
- NTT ドコモ- ネットワーク利用制限携帯電話機確認サイト
- au - ネットワーク利用制限携帯電話機照会
- ソフトバンク- ネットワーク利用制限携帯電話機の確認
- 楽天モバイル - ネットワーク利用制限携帯電話機の確認
いずれの通信キャリアも、以下のような表記でネットワーク利用制限の状態を管理しています。
ネットワーク利用制限の状態 | 定義 |
---|---|
○ | ネットワーク利用制限の対象外。通話・通信が問題なく利用できる |
▲ | 代金分割払い中の端末。代金債務の不履行等により利用制限となる可能性がある |
× | 端末代金債務不履行などによってネットワーク利用制限がかかっている。当該通信キャリアでの SIM カードでの通信・通話ができない |
- | 当該通信キャリアの管理対象外 |
SIM ロックとの違い - 使えなくなるかどうかは前の持ち主次第
中古端末におけるネットワーク利用制限で焦点になるのは、端末が使えなくなるかどうかは前の持ち主次第だという点です。
中古端末の前所有者がキャリアショップで分割払いで端末を購入しており、残債がある状態で中古スマホショップで端末を買い取ってもらい、その端末を中古ショップが再販したとします。 次の持ち主はそのスマホを問題なく使用していたが、前所有者が途中で端末の割賦代金支払を踏み倒した場合、端末のネットワーク利用制限ステータスが ☓ になり、現在の端末ユーザーが携帯通信できなくなる状況が起きます。
このようにネットワーク利用制限が ○ ではない中古端末は、購入者には何ら責任がないのに、いきなり端末を利用できなくなるリスクがあります。 そのため中古端末販売事業者は、このようなケースが発生した場合は返金や交換品を顧客に提供し補償することが一般的になっています。2
また SIM ロックは販売した通信キャリアのみの通信を許可するかどうかのいわばホワイトリスト形式の通信制御ですが、ネットワーク利用制限はブラックリスト形式の通信制御の仕組みです。その結果、SIM ロックとネットワーク利用制限の 2 つを考慮すると、以下のように端末で利用可能な通信キャリアを見分けることができます。3 一般的にネットワーク利用制限が ▲ や ☓ の端末は通常 ○ のものより安値で取引されるため、中古端末に詳しい人のなかには、あえて ▲ や ☓ の端末を探して買う人もいるようです。
端末を販売した通信キャリア | ネットワーク利用制限の状態 | SIM ロックの状態 | ||
---|---|---|---|---|
NTT ドコモ | ☓ | 解除済 | → | NTT ドコモ以外の SIM カードなら通信できる |
au | ○ | 解除済 | → | どの通信キャリアの SIM カードでも通信できる |
ソフトバンク | ☓ | 未解除 | → | どの通信キャリアの SIM カードでも通信できない |
楽天モバイル | ▲ | 解除済 | → | どの通信キャリアの SIM カードでも通信できる |
データを活用したネットワーク利用制限状況チェック効率化
前述した通り、ネットワーク利用制限の状態によって中古端末の利便性・利用リスクが変わってきます。そのため中古端末市場では同じ機種でも、ネットワーク利用制限の状態によって取引価格が変わります。よって中古端末事業者としては検品時にネットワーク利用制限の状態を確認し、▲ や ☓ の状態のものは他のものより安くしたり、販売方法を調整したいというモチベーションがあります。
しかし各通信キャリアのネットワーク利用制限確認サイトはあるものの、Web API などは提供されていません。中古端末事業者は、日々大量に入荷する中古端末ひとつひとつについて、各通信キャリアのネットワーク利用制限に個別にアクセスし、ネットワーク利用制限の状態を確認することになります。前回ご紹介した SIM ロックの解除状態の確認同様、手間のかかる検品プロセスとなります。
Belong ではこういった中古端末の検品や管理を効率化するため、社内では Model Catalog と呼ばれている中古端末のマスタデータベースを整備しています。 Model Catalog のマスタテーブルの一例を挙げると、TAC マスタがあります。IMEI の先頭 8 桁は TAC(Type Allocation Code)と呼ばれ、端末の機種(モデル)を表すコードになります。また TAC には通信キャリアに関係する情報も含まれることがあり、IMEI を手がかりにして様々な情報が特定できます。Belong では日々入荷する端末や、市場に流通している端末の公開情報をデータソースとして解析し、TAC とその関連情報を以下のように整備しています。これにより、どの通信キャリアから発売された端末なのかを判定することが可能になります。
TAC | 機種名 | ストレージ容量 | 通信キャリア |
---|---|---|---|
35084865 | Galaxy S23 | 256GB | NTT ドコモ |
35053330 | Galaxy S23 Ultra | 256GB | au |
35466360 | Android One S10 | 64GB | ワイモバイル |
35869259 | Xperia 5 IV | 128GB | ソフトバンク |
このデータベースをもとに、どこの通信キャリアで販売された端末なのかを判別することで、確認すべきネットワーク利用制限確認サイトを絞り込むことができ、検品プロセスの効率化を図っています。
おわりに
今回はネットワーク利用制限に関係する検品オペレーションを、マスタデータを整備することで効率化していることについて簡単にご紹介しました。
Model Catalog は端末検品・在庫管理業務だけではなく、市場価格データの自動収集・解析など社内のデータ管理・分析基盤の中核に位置するデータベースとなっています。他事業者とのデータ連携の際にもこのデータを利用することで、業界のデファクト・スタンダードとして機能させるべく、日々情報を更新しています。多言語対応や、より精緻な分析を可能にするためのメタ情報の拡充など、データによる事業効率化のために Model Catalog の果たす役割がどんどん大きくなるフェーズにあります。
- データを活用した中古端末に関わるオペレーションの効率化・自動化
- 公開情報のデータ収集・クレンジング・統合のデータパイプラインの構築
- きれいに蓄積された社内外の中古端末データを利用した中古端末の買取・販売価格設定の自動化・最適化
上記に興味のある方はぜひカジュアル面談でお会いしましょう!
Footnotes
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参考:ワイモバイル「ネットワーク利用制限とは?制限がかかるケース・中古スマホを購入する時の確認方法を紹介」 ↩
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「赤ロム補償」などと言われています。 ↩
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厳密には端末自体が対応している周波数帯(バンド)によります。例えば端末の仕様としてそもそも au の周波数帯しか対応していない端末の場合、SIM ロックが解除されていてネットワーク利用制限が ○ のものであっても、NTT ドコモの SIM カードでは通信できません。 ↩