Cloud Next '25にて紹介されていたGemini Code Assistについてまとめました
はじめに
こんにちは。株式会社 Belong で SWE をしている nemo です。
先日、弊社のカンファレンス渡航補助プログラムを利用して、ラスベガスで開催された Cloud Next'25 に現地参加してきましたので、気になったセッションについて本記事にて紹介いたします。 カンファレンス渡航補助プログラムにつきましては、こちらの記事をご参照ください。 SWE としては、Google 社から発表される生成 AI 関連ツール類に興味がありましたので、 会場では開発者視点で興味のあるセッションについて多く参加してきました。
本記事では、その中でも注目していた What's new in Gemini Code Assist
という、開発者向け AI 支援ツール「Gemini Code Assist」に関するセッションについて、その内容と所感をまとめました。
DORA 2024 Insights
セッションの最初では、まず AI 支援が実際の開発生産性にどのように寄与するかという説明から始まりました。 まず、DORAのレポートによると、2024 年は AI 支援により開発者に下記のようなインパクトがあることが示されています。
- AI 支援により、67% の開発者がコード記述の改善を報告。
- 開発者のフロー状態(集中している時間)が 2.6% 増加。
- 一方で、ソフトウェアの安定性が 7.2% 低下。
- 39% の開発者が AI への信頼性が低い/ないと回答。
生産性が高まった一方で、ソフトウェアの安定性が低下している課題があるものの、それでもメリットがデメリットを上回るという状況でした。
Gemini Code Assist を用いた開発サイクルについて
次に Gemini Code Assist の実際の適用について説明に入る前に、セッション内では簡潔な Gemini 2.0 の特徴について言及がありました。
Gemini 2.0 自体は去年にリリースされたモデルであるため、詳しい解説は割愛します。
Gemini 2.0 の特徴の一つは、100 万トークンというコンテキストウィンドウの能力ではありますが、Gemini 1.5 と比較したときに推論能力が上がっております。
トークンが少ないとファイルの参照範囲が限られたり、プロジェクト全体の複雑な依存関係を理解させるのが困難でした。 100 万トークンあると、大規模なリファクタリング、複数のサービスにまたがる機能の実装、あるいは分厚い設計ドキュメント全体を読み込ませてからのコード生成などが可能になります。 そして、このコンテキストを活かすための具体的な応用として、以下の 3 つのコンテキストが紹介されました。
- Project Context: ローカルのコードベース全体を理解。
- Enterprise Context: 組織独自のコードや標準に合わせてカスタマイズ (Code Customization 機能)。
- Engineering Context: Sentry、GitHub、GitLab、Jira、DataDog、Aqua など、様々な開発ツールとの連携を強化。
上記の説明の後、実際に上述の特徴を活かした Gemini Code Assist を用いた開発サイクルのデモを行っておりました。
このデモは、Gemini Code Assist が単なる「コーディング支援ツール」ではなく、要件定義からテスト、レビュー、デプロイ(デモでは GitHub へのプッシュまで)に至るソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)全体を包括的に支援するプラットフォームであることを述べておりました。
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要件定義 (Get requirements)
- 成果物: PRD / 設計書 (PRD / Design Doc)
- Code Assist ツール:
- PRD や設計書を読み込み、要約し、詳細を抽出する。
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API 仕様の作成 (Create an API spec)
- 成果物: API 仕様 (API Spec)
- Code Assist for Apigee:
- API Hub と連携し、会社のガイドラインに準拠した API 仕様を作成する。
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バックエンドのコーディング (Coding the backend)
- 成果物: バックエンド API (Backend API)
- Code Customization:
- 企業内ののプライベートコードベースに基づいてコードを作成する。
-
GitHub へのプッシュ (Push to GitHub)
- 成果物: GitHub 上のコード
- Code Assist for GitHub:
- 自動コードレビューを実行し、コード品質を向上させる。
現在、Cursor のような AI ネイティブエディタや、VS Code 上で強力な補完・チャット機能を提供する GitHub Copilot などが開発者の間で導入されています。 これらが主に「コーディング」フェーズの効率化に焦点を当てているのに対し、Google 社は Gemini Code Assist によって、SDLC のより広範な工程をカバーし、各種ツール連携によって開発ワークフロー全体を最適化しようとしている点が印象的でした。
また、Gemini Code Assist はデモで紹介された機能の他に下記のような機能があることを述べておりました。
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Code Customization: プライベートリポジトリや組織のコーディング標準に基づいた、テーラーメイドのコード提案。
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Agents and Tools:
@github
で Issue を検索・要約したり、@sentry
でエラー情報を参照したり、@docs
で社内ドキュメントを検索するなど、チャットインターフェースから外部ツールや情報ソースと連携し、複雑な SDLC タスクを自動化・支援するエージェント機能。これは、Slack Bot などで定型作業を自動化するような感覚に近く、開発者が IDE やコンソールから離れることなく、必要な情報収集や簡単な操作を行えるようにするもので、日々の細かなコンテキストスイッチを削減する効果が期待できます。 -
Code Assist for GitHub: GitHub 上での自動コードレビュー機能を提供。
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Observability: Gemini Code Assist の利用状況(アクティブユーザー数、コード提案・承認率など)を可視化し、開発チームの生産性に関する洞察を提供。
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IDE サポート: VS Code, JetBrains IDEs など、主要な IDE 向けの拡張機能として提供。
私が試してみたいと感じたのは、Agents and Tools
です。 コーディング中の疑問点をチャットで尋ねられるだけでなく、
関連する Issue やエラー情報をその場で参照できることは、日々の開発におけるストレスを軽減してくれる可能性を感じました。
2025 年への展望
最後に、2025 年に向けた Gemini Code Assist のロードマップが示されました。以下の 3 つの領域に注力していくとのことです。
- Developer Experience (開発者体験):
- ストリーミング応答(リアルタイム性の向上)
- 100 万トークンサポートの継続・強化
- プロンプト編集機能
- コンテキスト理解のさらなる向上
- 検索機能との統合強化
- 対応 IDE の追加
- Enterprise (エンタープライズ対応):
- 追加の SCM(ソースコード管理ツール)サポート
- ポリシーと標準の適用強化(例: セキュリティポリシー、ライセンス準拠)
- 可用性の向上
- サードパーティ IDP(ID プロバイダ)統合
- ダッシュボードとロギング機能の強化
- SDLC (ソフトウェア開発ライフサイクル):
- SDLC エージェント機能の強化(より複雑なタスクの自動化)
- 対応ツールの追加
- ツールマーケットプレイスの構想(サードパーティ製ツールの連携?)
- レビュー機能の強化
- ドキュメント生成支援
- 安全性とセキュリティ機能の強化
上記の中でも「ツールマーケットプレイス」に期待をしています。 実現すれば、開発者は Gemini Code Assist をハブとして、様々なサードパーティ製ツールを連携させ、自分たちの開発スタイルに最適化された、より良い開発支援環境を構築できるようになるかもしれません。
まとめ: SDLC 全体を変革するプラットフォーム
今回の What's new in Gemini Code Assist
セッションを通して、Gemini Code Assist が単なるコード生成 AI ではなく、開発者の生産性を最大限に引き出すための包括的なプラットフォームを目指していることが伝わりました。
プライベートコードを学習する Code Customization、そして SDLC の各工程に対応するツール連携とエージェント機能は、GitHub Copilot をはじめとする競合ツールに対する差別化ポイントであると感じました。 また、DORA レポートが示すように、AI 支援にはまだ「安定性」や「信頼性」といった課題も残りますが、Gemini Code Assist の自動レビュー機能や Observability 機能は、これらの課題に対応したものであると感じます。
生成 AI がますます開発プロセスに深く統合されていくであろう未来において、Gemini Code Assist は、Google Cloud のエコシステムとの親和性の高さも相まって、特に Google Cloud を利用する企業・開発者にとって、有力な選択肢となり得ると感じました。
所感: Belong での適用可能性について
弊社では、現在以下のようなフローで開発を行なっています。
- 要件の定義(PRD の作成)
- 開発タスク(チケット)の定義
- 実装
- GitHub へのプッシュ
- レビュー
この中で、既に「実装」については、GitHub Copilot を使用していますし、「レビュー」内では GitHub Copilot を用いたレビューを一部行なっています。 とは言え、全ての開発サイクルに生成 AI を活用しているわけではありません。
そのため、今回紹介されていた Gemini 関連のツールを用いていくつかのフローは効率化できる可能性があります。 例えば、「開発タスクの定義」をした後に Issue を GitHub 上に作成すれば、その仕様を Code Assist Tools を用いて読み込むことが可能になります。 また、「実装」につきましても、Code Customization を使うことにより、プロジェクト固有のコードの書き方を踏襲し、一貫性が保たれたコードを提案してくれそうです。 「レビュー」においては、現在 GitHub Copilot ではなく、Gemini Code Assist のボットを利用して、開発サイクル全体を Gemini に寄せるとということも考えられるかと思います。 実際には、既存のツールと比べてどれくらいの生産性が上がるのかという部分は検証が必要かと思いますが、Code Customization については、期待できる部分があるのではないかと感じました。
おわりに
本記事では、Google Cloud Next '25 の中のセッション What's new in Gemini Code Assist
についてまとめさせていただきました。
2025 年はこうした AI の活用がより進む年であることを実感しています。
最後に Belong では、共に働くエンジニアを募集しています。Belong では現在生成 AI ツールを導入し、開発生産性を伸ばす取り組みを盛んに行っております。
新しい技術に興味がある方、実際に生成 AI を利用した課題解決に興味がある方は以下リンクもご参考いただければ幸いです。
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